鉄不足で起こる不調とは?原因・症状・対策を薬剤師が解説

こんにちは、薬剤師まっきーです。

「最近なんだか疲れやすい」「手足が冷える」「集中できない」
そんな不調の背景に、鉄不足が関係していることをご存じでしょうか?

鉄は、血液中で酸素を全身に届ける大切な役割を持っています。ところが、日本人の女性や成長期の子どもでは、鉄が不足しやすいことが報告されています(参考文献①)。

この記事では鉄不足によって起こる不調の

  • 原因
  • 症状
  • 対策

3点について、信頼できる研究や公的機関のデータをもとに、わかりやすく解説します。

目次

鉄不足の原因と鉄不足になりやすい人

私たちの体内にある鉄の約70%は赤血球のヘモグロビン鉄として使われ、体中の臓器や組織に酸素を運んでくれます。その他、電子伝達系の酵素、代謝酵素、免疫機能などにも関与しています。

体内にある鉄の多くは再利用され、体外へ排出されるのはごく微量です。しかし、慢性的に摂取する鉄分が少ないと、体内の鉄が徐々に減っていき、やがて鉄欠乏状態になってしまいます。(参考文献②

また、鉄不足に悩んでいる方は、女性に多い印象はありませんか?
実際に厚生労働省の調査でも、20~40代女性の鉄摂取量は推奨量を下回っていることが明らかになっています(参考文献①)。

鉄不足になりやすい人は次のような方達です。

  • 月経のある女性
  • 妊娠中・授乳中の女性
  • 成長期の子ども
  • 激しい運動をする人(スポーツ選手など)

まっきー

閉経前の女性は月経による鉄喪失。子供は身体の成長に伴う必要量の増加が原因で鉄不足になりやすいとされています

閉経後の女性や成人男性で、運動量が多くないなど上記に当てはまらないにもかかわらず、健診などで鉄不足が指摘された場合は、消化管出血などの疾患が原因の場合もあります。早めに医療機関を受診するようにしましょう。


鉄不足で引き起こされる主な症状

鉄分が不足すると貧血になることはご存じの方も多いと思います。貧血とは、酸素を運搬するヘモグロビン濃度が基準値を下回った状態のこと。貧血になるとめまいや疲労感など様々な症状が引き起こされます。

ところが、ヘモグロビン濃度は基準値内なのに、体内の鉄分が不足している”隠れ貧血”の人が多いことが示唆されています。この隠れ貧血の状態でも、様々な症状が引き起こされることが分かってきました(参考文献③)。

まっきー

隠れ貧血のことを潜在性貧血と呼ぶこともあります

1. 疲労感・だるさ

鉄が不足すると血液中のヘモグロビンが減り、全身に十分な量の酸素を運搬できません。その結果、慢性的な疲労感や体のだるさを感じやすくなります。
実際に、鉄欠乏が慢性的な疲労と関連することが臨床研究でも示されています(参考文献④)。

2. 集中力の低下・認知機能への影響

鉄は脳にも必要な栄養素です。鉄不足の状態が続くと、注意力や学習効率の低下につながることが知られています。特に子どもや若い世代に影響が大きいとされており、注意が必要です(参考文献⑤)。

3. 手足の冷え

鉄が不足して酸素の運搬がうまくいかないと、手足の冷えを感じやすくなります。特に女性は月経によって鉄を失いやすいため、注意が必要です(参考文献⑥)。

4. めまい・立ちくらみ

貧血の方に多くみられるめまいや立ち眩みですが、隠れ貧血の方でも立ちくらみやめまいを訴えていたという研究報告もあります(参考文献⑦)。

5.爪の変形

古くから爪の変形(スプーン爪)が見られる人には、貧血の所見が認められていました。隠れ貧血の状態でも爪の変形が起こりやすいかどうかは、現段階で明らかになっていませんが、慢性的に鉄不足が続くと爪の変形が起こりうるとされています(参考文献⑫)。

鉄不足の対策

鉄不足にならないためにはどうすれば良いでしょうか?

排出量や必要量を減らすことは難しいため、摂取量を増やすことが大切。実際に隠れ貧血で疲労感などの症状を訴えている人が、鉄分の補給で改善したと報告されている研究もあります(参考文献⑧)。

鉄分の補給方法は主に3つあります。

1.食事で鉄を補給する

まずはなんと言っても食事。誰でも毎日行うことなので、鉄を多く含む食材を取り入れることで、摂取量を増やすことができます。

食材に含まれる鉄には2種類あり、どちらもバランス良く摂取することが大切です。

①ヘム鉄
  • 動物性食品に多い
  • 吸収率が高い(15~35%)
  • ほかの食事の影響を受けず安定して吸収されやすい
②非ヘム鉄
  • 植物性食品に多い
  • 吸収率が低い(2~20%)
  • ほかの食事の影響で吸収率が大きく変動しやすい
    例)ビタミンCや動物性たんぱく質と一緒だと吸収率UP
      お茶やコーヒーに含まれるタンニンで吸収率DOWN

食事で補給するためのコツをいくつかご紹介します。

鉄を多く含む食材を取り入れる

日頃の食事で使う食材を選ぶ時、鉄を多く含む食材を選ぶと摂取量を増やしやすくなります。また、植物性食品に多い非ヘム鉄は、ビタミンCと摂取すると吸収率が高くなるため、うまく組み合わせると良いでしょう(参考文献⑨

まっきー

仕事や勉強の合間のおやつに、ナッツや干しぶどうなどを選ぶのもおすすめです

コーヒーやお茶は食事と時間をずらす

コーヒーやお茶に含まれるタンニンは、鉄の吸収を邪魔してしまいます。そのため食事中や食後すぐにコーヒーやお茶を飲む方は、せっかく食事で摂った鉄分が無駄になってしまっているかもしれません。食事とお茶の時間を1時間ずらすと、タンニンによる鉄の吸収阻害が軽減したという報告もあります(参考文献⑬

まっきー

通常の食事と1杯程度のお茶であれば特に問題はないですが、鉄不足が気になる方は意識してみてください

2.サプリメントで鉄を補給する

食事からの摂取が基本ですが、多忙な日々を送っているなど、栄養バランスを気に掛ける余裕がない場合もあると思います。そんな時は、鉄を含むサプリメントを利用するのも一つの方法です。

ただし、過剰摂取は胃腸障害や臓器不全を招くため、各サプリの用法用量を守り、鉄を含む複数のサプリを服用することは避けましょう(参考文献⑩)。

まっきー

薬を服用中の方は、医師や薬剤師にサプリを服用しても問題ないか確認してください

参考までに厚生労働省が発表している鉄の食事摂取基準について、推奨量と耐容上限量を下の表にまとめました。


鉄の食事摂取基準(日本人の食事摂取基準2020年版より)
年齢区分・性別推奨量(mg/日)耐容上限量(mg/日)
0~5ヶ月(男女共通)0.5
6~11ヶ月(男女共通)5
1~2歳(男女共通)4.525
3~5歳(男女共通)5.525
6~7歳(男女共通)6.530
8~9歳(男女共通)830
10~11歳
(男・女)
9・1035・35
12~14歳
(男・女:月経あり・なし)
11・9・1440・40・40
15~17歳
(男・女:月経あり・なし)
10・8.5・1445・45・45
18~29歳
(男・女:月経あり・なし)
7.5・6.5・1150・50・50
30~49歳
(男・女:月経あり・なし)
7.5・6.5・1150・55・55
50~64歳
(男・女)
7.5・6.550・50
65~74歳
(男・女)
7・650・50
75歳以上
(男・女)
6・5.545・45
妊婦(初期)8.5
妊婦(中期)21.5
妊婦(後期)21.5
授乳婦9
日本人の食事摂取基準2020年版より筆者作成

3.医薬品で鉄を補給する

他の2つと異なり、自己判断だけで取り入れることはできませんが、医師が処方する鉄剤(フェロミアやフェロ・グラデュメットなど)を服用することでも補給可能です。

健診などで鉄不足を指摘されており、食事やサプリだけではなかなか改善しない場合は、医療機関を受診して医師へ相談してみてください。

まとめ

  • 鉄不足は「疲れ・冷え・集中力低下・めまい」など身近な不調を引き起こす
  • 女性や成長期の子どもは特に注意が必要
  • レバーや赤身肉、魚、小松菜、大豆製品などを組み合わせて効率よく摂取
  • サプリは医師・薬剤師に相談して安全に利用

「疲れやすさは年齢のせい」と思い込まず、鉄不足をチェックしてみましょう。食生活を少し工夫するだけで、体調がぐっと改善するかもしれません。

それでは今回はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました!


参考文献

  1. 厚生労働省「国民健康・栄養調査」2022 第1部 栄養摂取状況調査の結果
  2. 鉄代謝と鉄欠乏性貧血―最近の知見―
  3. Non-anaemic iron deficiency
  4. Patterson AJ, et al. Iron deficiency, general health and fatigue: results from the Australian Longitudinal Study on Women’s Health. BMJ. 2001.
  5. Beard JL. Iron biology in immune function, muscle metabolism and neuronal functioning. J Nutr. 2001.
  6. Beyond anemia: a comprehensive analysis of iron deficiency symptoms in women and their correlation with biomarkers
  7. Iron supplementation for unexplained fatigue in non-anaemic women: double blind randomised placebo controlled trial
  8. Efficacy of iron supplementation on fatigue and physical capacity in non-anaemic iron-deficient adults: a systematic review of randomised controlled trials
  9. Vitamin C-Dependent Uptake of Non-Heme Iron by Enterocytes, Its Impact on Erythropoiesis and Redox Capacity of Human Erythrocytes
  10. Iron; Benefits or threatens (with emphasis on mechanism and treatment of its poisoning)
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  12. Koilonychia in a Patient with Heart Failure and Iron Deficiency Anemia
  13. A 1-h time interval between a meal containing iron and consumption of tea attenuates the inhibitory effects on iron absorption: a controlled trial in a cohort of healthy UK women using a stable iron isotope
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